丁字路

サラリーマンYと脱サラリーマンTが書くブログ

丁字路

―別々の道を選んだ2人の記録―

(Y)パンについて考えろ

御機嫌よう、諸君。

 

Yである。

 

統計によると日本人の8割は朝にパンを食べるらしい。統計、とは基本的に私がおかんから聞いただけの事を指すので深く議論する気は無い。パンを多くの人が朝に食う。事実だ。

一流のサラリーマンの卵になるかならないかもわからないただの会社勤め2年目として意見すると、朝食は大事だ。

なぜか。それがルーティンをつくるからだ。毎朝同じ事をすれば心が整う。ルーティンは私を落ち着かせ、その日闘うHEARTを作り上げる。私は朝起きると必ずCOFFEEをDRIPして、パンを食す。たまに時間がなくて、買っておいたお団子の時もあるがパンを語るにあたり不都合な上、あんまりバレて無いので秘密にしている。

 

パンとCOFFEEはまるでTAKAHIROとATSUSHIだ。一方が欠けることはあってはならない。2人が生み出すハーモニーこそ朝食であり、完璧なルーティン、そう、EXILEなのだ。周りの踊りの奴はお皿とか爪楊枝だ、いてもいなくてもいい。私は何があっても絶対朝にCOFFEEを飲むのだが、私は缶コーヒーと書いて"じゃどう"と読む癖があるのでDRIPしたもの以外をCOFFEEとは呼ばないことに注意して欲しい。

そんなこだわりがあるなら、じゃあCOFFEEについて書け?

 

甘い。甘すぎる。

まだ諸君は知るに値しない。

まるでベトナムコーヒーに角砂糖を2個入れたような甘ちゃんだ。

 

よってまずは、パン。ATSUSHIの前にTAKAHIROだ。ATSUSHIはソロデビューしソロアルバムをリリースしても良いがTAKAHIROはダメなそれと同じだ。

まず第一、パンについて、真剣に考えているのはきっと"チーム未完成"のお二人しか居ない。少なくとも日本では23年間生きたのにこのお二人にしか出会って居ない。"チーム未完成"は世界を股にかけて活躍するアーティストで神保町の古本祭り併催のアート横丁でお会いした。ちなみにその日はCOFFEE祭りも併催と後から聞いて、イタリアンローストのような苦い気持ちを味わった。

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これはその御二方が世界を股にかけ出版されている、"パン" (フルカラー写真集,¥800)である。多分発行数はそれほど多くなくわざわざ買うものでもないため、持っている方は非常に少ない極めてレアな写真集だ。コラムも付いている。私はこれを購入、熟読し、パンへの理解が如何に不足して居たか思い知らされた。気になった人は検索をお勧めする。より多くの人がパンについて考える機会を得る事を望むからである。

 

そして第二に、私は、パンについて、パンを食すことについて真剣に考えた、そして試行錯誤を繰り返した。そして一つの解を導き出した。

お聞きする。

みなさんはどうだろうか。

 

パンを何で調理する?

 

この問いへの返答は極簡単なものだ。

8割の人間はこう答える。

 

ああ、トースターで焼いているぜ。

 

決して間違いでは無い。確かにトースターはその名が示すとおり、パン(又の名をトースト)をトースティングするためのトースターであり、トーストをトースト足らしめるためにトースティングする以上でも以下でも無い。

 

しかし、思考を停止してはならない。トーストをトースティングし、トースト足らしめるのがトースターであれば、

 

 

 

フライパンはどうなんだ。

 

 

 

これに回答できる人間はいるだろうか。私は2割しか居ないと思う。残り8割の諸君に私から一つ、思考の提案をする。

先ほどの思考を応用して考えてみよう。

 

トースターはトーストをトースティングするならば、フライパンは、パンをフライし、パン足らしめるのでは無いか??

つまり、

1,パンがトーストである。

2,トースターはトースティングする。

3,フライパンはフライする。

以上3つの原理から、フライパンでもパンは調理可能だという理論が成り立つではないか。

これに関して。

常に物理は、原理に基づく。ある現象を考えるときに法則によってその現象を証明するが、最後に証明を裏付けるのが原理なのだ。

例を挙げると原理とは、例えばりんごが木から落ちる事を指す。つまり、重力である。重力は全てのものを下に落とす。例外はない。これが原理だ。

この原理を用いて、水平な公園のシーソーの真ん中から左の位置にりんごを乗せたら左が下に落ちる。という事は説明できる。

今回のパン、トースター、フライパンの件も三つの原理に基づいた証明が出来た。ここで大学の知識が生きるとは思いもしなかった。

この時のために親は学費650万以上をつぎ込み私を大学に進学させてくれたのか。私は大学に行けて本当に良かった。

そして、親に感謝しても仕切れないので普通に謝罪したい。

 

 

くじけずに、私は本日その理論を元に実証を行なった。

 

 

そう、パンをフライパンで調理したのだ。

 

 

まずはフライパンをコンロにかけ、プラスチックのチャチなツマミを一気に回し切った。

 

 

 

 

強火だ。

 

 

 

 

室内温度10℃以下のキッチン。フライパンの上に陽炎が立つ。じわじわと私にも伝わる熱気にたじろぎながらも私は袋から6枚に下ろされたパン、そう、トーストでありブレッドであるそいつを一枚丁寧に取り出す。そいつはクシャリという小さな音を立て恥ずかしそうに身をよじるナイロン製の袋を擦り開け、微かな粉塵とともに圧倒的緊張感のステンライススティールの銀世界、キッチンに躍り出た。

私は全く容赦しなかった。躍り出たパンの2辺をすっくと掴んだまま、灼熱に仕立て上げられた鉄製円盤縁付き板の上に誘う事に迷いなく、時間にして2秒はかからないうちに、真夏の晴天に長時間照らされた14時過ぎのプールサイドの漆黒の鉄製溝蓋の上とも言えるその場所へと寝そべらせたのだ。

そして時は止まった。

陽炎はパンを躱すように4辺から立ち上り鉄製板の滑らかに立ち上がっていく縁を舐めながら踊る。パンはその熱を、熱に踊る妖怪を諸共せずに鉄製板の中心に大の字になってくたばっている。

私はこの時、フライパンの上で起こる出来事に集中した。訪れた時間の静止。静寂の中に僅かな変化の兆しを捉えようとする私からは、高まる鼓動を抑えるためのブレーキはとうに外れてその辺に転がっている。集合住宅において最も悪質とされる行為でもあるにも関わらず、私が我慢しきれず奇声を発するまさにその5秒前.....

 

 

 

 

シュツ、シュトゥルム、シュツ

 

 

 

一瞬で私の五感は一つを除き全て停止した。

聴覚のみが500%の力を発揮しその変化を、音の波動として受け取ったのだ。

 

 

 

 

.....パンが、焼けた。

 

 

 

 

私はパンを焼くために、パンが焼かれる時間のために23年間で1,2を争う思考をした事を秘密にしたい欲求に駆られた事は事実であると述べる一方、誰かがやらなければならないという使命感にも苛まれた事をここに記す。

 

そして私はためらう事なく、投入時と同様そっと2辺を掴み上げ、裏表を返した。

 

袋から出した時は真っ白なアザラシの赤ちゃんの頬の肌見たく様子していたパンが、中心から四辺のミミに向かって円形に力強い焼畑農業を繰り広げていた。

私はそのあまりにも美しい放射状の模様に絶句し、見惚れ、酔った。もちろん裏面も調理したのだが酔いすぎて記憶がほぼない。

 

私は急いで出来上がったパンにバターを塗り付け、安物の紙ケースに封入されている賞味期限の僅かに切れたブルーベリージャムをまき散らした。

 

そしてフライパン投入時、裏表反転操作時同様、2辺をすっくと掴み上げて口に誘った。

 

カリッと始まる食感のIntro。二本あるうちの左側一本は、まるまるセラミックの差し歯である私の前歯でも感じる乾いた感触、硬すぎないが十二分にキレがあるパンの小麦の中の炭水化物の原子間の分割感。

 

この時私は踏み込んではいけない所に踏み込んでしまった事に気付いたが、完全に遅かった。

 

Intro に引きずられるように訪れるchorus。モッチリしたパンの内面層の柔らかさが口内の甘みを受け取る感覚器官に絶頂をもたらす。マーガリンの甘さでも賞味期限切れブルーベリージャムのそれでもない、パンの柔和さがもたらす甘み。まるで官能小説を初めて読んだ時のようなあまり刺激の強さに、かといって柔らかな田舎の旅館の若女将の様なその優しさに、私は白目を向かざるを得なかった。

 

その後もパンは一切手を緩めなかった。耐え難い、感覚への総攻撃が続いた。

 

カリッと始まり、モチッとフワッとモチャモチャと。

 

白目のまま、一気に1枚の食パンを食べ終えていた。

 

私はキッチンの使い古したマットの上に膝から崩れ落ちこう呟いた。

 

 

 

 

フライパンで...ウマイパン...

 

 

 

全然おもしろくない。

 

その後 私は1時間経たないうちにオーブントースターを粗大ゴミにぶち込んだ。

 

要は、フライパンだ。

 

フライパンの方が、パンが美味しく焼けるのだ!

 

ここまで読んだ皆さんが既にオーブントースターのコンセントをぶち抜いている事の想像は容易だ。しかし、それは早すぎる。あまりにも軽率、かつ危険だ。

 

まずは、自ら試して欲しい。

トースターで焼いたもの、フライパンで焼いたものを比べて食べてみて欲しい。

順番にだ。私の様にしてはならない。

私は鍛えられたSOLDIERなので白目を剥くだけで耐えられた。諸君は違う。

まだまだBABYだ。プールにもまずは心臓に水をちょぽちょぽかけてから入らなければならない。

少しづつ、試して欲しい。

トースターを捨てるのは、それからでも遅くはない。

そして、この実験からわかった新たな事実を何故自分はこれまで発見出来なかったかを考えて欲しい。パンを食べながら。

 

 

 

それは、皆さんが気を使わなかったからだ。興味を持ちきれなかったからだ。考えなかったのだ。

 

 

 

パンを。

毎日食べている、パンのことを。

 

 

 

今ある世界が普通であると興味を持たない事は危険なのだ。

だから私は今回、紛糾した。

 

 

 

 

 

パンについて考えろ

 

 

 

 

 

 ここまで言い切った私の本日の夢は、オーブントースターメーカーの開発者に黒い鉄板に縛られ、コンロを強火にされる悪夢と確定してしまった。

 

 

 

 

悪夢の中。

 

 

聴覚だけが目覚め出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュツ、シュトゥルム、シュツ